インド洋の青い海を隔て、わずか200km。フランス海外県レユニオン島とモーリシャス島は、地図の上では隣り合う存在です。しかし、ひとたびモーリシャス島に足を踏み入れると、街に流れる空気も、人々の言葉も、そして食卓に並ぶ料理も、驚くほど違って見えてきます。
本書の著者はレユニオン島在住で日常的にレユニオンのクレオール料理に親しんできましたが、「お隣モーリシャスの味」を本格的に体験したことはありませんでした。そこで決意したのが、3週間の現地滞在です。テーマは郷土料理を徹底的に食べ尽くすこと。
モーリシャスは、フランス、イギリス、インド、アフリカ、アラブ、中国など、多様な文化が交差してきた島国です。そのため食文化も一言では語れない、幾層にも重なった豊かな構造を持っています。インド系移民がもたらしたカレーやビリヤニ、フランス・クレオールの流れを汲むトマト煮込みや繊細なハーブ使い、中国系移民が広めた炒め麺や蒸し点心。こうした料理が家庭の台所から町角の食堂、洗練されたレストランに至るまで自然に溶け込み、モーリシャス独自の味わいを形づくっています。
レユニオン島にも多民族文化とクレオール料理があります。しかし実際に食べ比べてみると、味付けの方向性、香辛料の使い方、食材の組み合わせ、さらには盛り付けの感覚にまで違いが見えてきます。食の比較は、そのまま歴史と社会の比較でもあります。本書は味覚を通して島の背景を読み解く試みでもあります。
特に中国系コミュニティの存在感はモーリシャスのほうが色濃く、ミン・フリット(炒め麺)やブーシェ(点心)は日常食として深く定着しています。また、屋台文化やストリートフードの活気も印象的で、観光地の華やかさとは異なる“島の素顔”を感じさせてくれます。
著者は滞在中、観光客向けの店舗よりも、地元の人々でにぎわう食堂や市場に足を運びました。「島の食は、島の歴史そのもの」という確信があったからです。誰が、どのような背景でこの地に渡り、何を持ち込み、何を残したのか。その答えは皿の上に表れています。
本書には実際の旅で役立つ「食の現地メニュー集」を収録しています。あらかじめメニューを頭に入れ、ぜひ現地で役立ててみてください。
レユニオンに暮らす著者だからこそ見えてきた、モーリシャスの食のリアルな魅力。隣島という近さがあるからこそ浮かび上がる違いと個性。本書が旅行前の予習としても、旅の最中の道しるべとしても、そして帰国後の記憶を呼び覚ます一冊としてもお役に立てれば幸いです。

最終更新日:2026年2月18日